京都屈指の観光地・嵐山。
絶え間なく人でごった返す渡月橋(とげつきょう)を、人通りの少ない方向へ川沿いに歩くと、「シン」と静まり返った竹の門が見える。
その門に覆いかぶさるような四季の木々もまた見事。
これが、言わずと知れた名店「嵐山吉兆」である。
老舗モールの「京の料亭」コンテンツで紹介させて頂く際、商品の詳細と、「店の外観の写真」が必要であった。
2年前の夏、この会社に入って3ヶ月だった私は、「店の外観の写真」のことが頭からすっかり抜け落ちており、気付いたときには血の気が引いた。
入稿の締め切りは2日後に迫っている。
とにかく吉兆に電話をして、
「今日か明日に、外観を撮らせてください」
とお願いしなければならない。
この当時の私はまだカワイイものであった。
日本屈指の名料亭という迫力におされて、「写真撮らせて」のお願い電話1つにガチガチに緊張していたのである。
そんなことで「なんやとー!」なんて怒る人は、日常生活では、なかなかお目にかからない。
仮にそんな人がいたら、私は確実にシカトするであろう。
仕事関係でなければ。
しかし、どこの業界にも
「ココではコレ当然」
というシキタリがある筈で、私は敷居の高そうな京料理業界の、あるかないかもわからない逆鱗に触れてしまうんではないかとびくびくしていたというわけである。
実体のないオバケを怖がる気持ちといっしょである。
とにかく担当の部長さんに電話をした。
部長さんの声は、張りがあり、それでいて暖かみのあるかんじであった。
「今日の昼だったらいつ来てくださってもいいですよ~」
即答をいただいた。
午後3時アポ。阪急電車で嵐山へ向かった。
ホームを降りると、そこは未知の世界であった。
そういえば阪急電鉄で嵐山へ来たことは一度もなかった。
嵐山駅はメジャーな観光地ということもあり、JR、京福、阪急と様々なラインが通っており、阪急嵐山駅はいわゆる「嵐山」から数100mはなれた、比較的静かな場所に立地している。
ここからどうやって吉兆に行けばよいのか。
タクシーを捜した。なかった。
駅のロータリーに、白い車がスーッと近づいてきた。
なんと吉兆の部長さんであった。
「わかりにくいでしょ~」
アポの10分前、なんと、駅まで迎えに来てくださったのであった。
「何電車で来られます?JR?阪急?」と電話で聞かれたのを思い出した。
「車だと3分くらいで着くんですけどね~歩くとけっこうかかりますからね~」
このホスピタリティ。
吉兆に着いて、まず外観を撮らせていただいた。
冒頭の写真がソレである。
撮る前に、「ちょっと待って」
部長さんが言った。
門の裏からホースを出してきて、門前の石畳にまんべんなく水を撒きはじめた。
「お客様が来られる5分前には、一組づつ、必ずこのように水撒きをし、門を清めて迎えるのです」
という。
写真はこの門前のもの1カットで十分だった。
突然の撮影を快諾していただいたのと、「水撒き」の話にひどく感銘を受けた私は大満足で深く御礼を言って帰社しようとした。
「よろしければ中も見て行かれますか?室内には入れないけど。けっこう面白いですよ」
部長さんから思わぬお声をいただいた。
たしかにこの中、どれだけの広さか、しつらえはどうなっているのか、無限大に想像力がふくらんでいたところであった。
門の奥は、広かった。
豊かな緑の中に、落ち着いた庵、というか離れが、ポツ、ポツ、と点在している。
同じデザインのものは1つもなかったように思う。
この離れで、一組づつ、料理が供されるのである。
見終わって、部長さんが
「いろいろあって、けっこう見飽きないでしょ?」
とおっしゃっていた。
確かに見飽きない。もっとちゃんと見たいと思った。
いつかこの中に入って、食事をしたいと思った。
食事とは、当たり前だが料理そのものの味だけではない。
この時見た吉兆の外観は、確かにスキがなかった。
木々の配置や行燈などは言うまでもなく、夕日が差したときの美しさや、鳥のさえずりまでもが計算に入っているような気がした。
自然のほうから吉兆に調和したがっているような、そんなかんじであった。
そんなかんじは一度も味わったことがなかったので衝撃的であった。
してその環境で頂く料理は、間違いないと思う。
食べたことないけど。
船場吉兆の一連の騒動で、吉兆グループは危機に陥った。
私は嵐山吉兆の料理を一度も頂いたことがないけど(何回も言うけど)、2年前のこの日にビシビシ感じた「もてなしの精神」が脳にひどく焼きついているので、嵐山吉兆の印象は、騒動の後も一向に揺るがない。
憧れも変わらない。
死ぬまでに一回食べてみたい。
というか、五感を全開にして、嵐山吉兆を「体感したい」
そんな気持ちがやまないのである。
今日は雰囲気を変えて「デアル」調で書いてみました★ふふふ
大阪で創業した吉兆。
最初のメニューは鯛茶漬でした。
嵐山吉兆のお鯛茶。

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